この契約、守らなかったらどうなるの、という視点

契約を守らない 契約書
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上海で仕事をしていたときに相手から投げかけられた質問に驚いた。

日本にいれば、おそらく耳にすることなどない質問だけに、最初は誂われているのかと耳を疑ったものだった。

この契約、守らなかったらどうなるの?

相手は日本式の契約書をみて単純に疑問を投げかけたのだろうが、日本人の自分はこの答えに窮してしまう。

契約書は守るのは当たり前で守らないことはありえない。

ところが現実は、契約書にかかれていることが守れない、そもそも契約書に書いていない、ことが原因になることがほとんど。

日本式の契約書が役に立たない理由は、トラブルが起きたときに話し合いで契約するという信義則条項で全てを解決しようとすること。

トラブルに合ったことがある人ならわかると思うが、トラブルが起きたときに話し合いなんてできるはずがない。

この信義則条項について、中国人はこうも言った。

トラブルが起きたら話し合いて解決するということは、こちらがトラブルを起こしても話し合いに応じてくれるのですね?

最初は言っている意味がわからなかった。

欧米の契約書を見ればわかるが、やってはいけないことをやってしまった場合、やらなければ行けないことをやらなかった場合、ビジネスを進めていくうえでのマニュアルが事細かく定められていて、それぞれに対するペナルティも細かく事前に定められている。

中国人からすれば、このような契約書がある一方、トラブルが起きたときは話し合いで解決するという日本式の契約書がとても「易しい」契約書に見えたに違いない。

「易しい」というのは、契約を守らなくても話し合いでどうにでもなるということを意味する。

日本人の契約書に対する態度はとても紳士的で、書いてあることは絶対で、守らないといこと自体あってはならない。

もっとも最近では契約を守らないことも特別なことではないが、そうなったときは司法で解決することになる。

さて司法解決というと、契約を守らない側が悪、契約を破られて側が善、司法はしっかり判断してくれると思いがちだが、その考えは甘いと言わざるを得ない

司法解決で相手に求める損害賠償請求にしても、懲罰的賠償がない日本の民法典では、実損を請求できるに過ぎない。

その実損請求にしても、損害額の算定をどのように行うのか。

未払い事件のように具体的に数字がわかる場合はよいが、それ以外の場合に相手の行為と損害額の因果関係を証明するのはとても難しい作業になる。

そしてようやく勝訴判決を得ても相手が控訴する、さらに控訴が棄却され判決が確定しても、相手が執行しなければ、強制執行となるが、その手続や費用を考えると、とても訴訟をやる気など起きない。

訴訟はとても非効率なトラブル解決手段なので、訴訟に至った時点で原告被告ともに敗者である。

この記事を書いた人
TANAKA Tomio

2004年弁理士登録
電機・電子・IT分野を得意とし国内・国外の権利化について豊富な経験と実績あり。
中国上海駐在経験を活かし中国実務についても豊富な経験あり。
知的財産調査官として特許を始め意匠・商標・著作権・不正競争防止に係る模倣品の輸入差止め審査に従事した経験を活かし模倣品対策についても積極的に取り組む。

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