罰則がない契約では抑止力にならない

罰則がない契約 契約書
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大企業と中小企業との取引の公平化を目的として政府が各種契約書の雛形を用意している。

本来、当事者間の合意のもとに作成される契約書を政府が用意するということ自体に違和感があると同時に、政府が契約書の雛形を用意してしまうと、政府が用意してくれた契約書を使っているのだから安心、という根拠のないセーフティーネットが作られてしまう気がしてならない。

さて、その契約書案がアップされていたので、どんな雛形なのかと興味津々であったのだが、内容を見てみると巷に存在する契約書の雛形を何ら変わったところがない。

秘密保持契約書ひな形(案)

雛形なので当たり障りのない内容となるのは仕方がないのだが、多くの場合、この雛形をそのままの形で、錦の御旗のように使い回すのではないだろうか。

私が起案する契約書には、○○○をしてはならない、という禁止条項だけではなく、○○○をしなかったら△△△のペナルティを課す、というペナルティ条項を可能な限り盛り込んでいる。

契約書は守るものという契約遵守精神は日本人特有なので、日本企業同士で契約を締結する限り守られないことはない、のかもしれない。

かもしれない、と懐疑的になっているのは、最近では約束を破ることを厭わないケースが少なくなく、日本企業同士であって、契約を守らないことが起こるようになってきているのである。

契約を守らない、ことは契約遵守精神に反するのだが、世界に目を向ければ、契約を守ることによるデメリットよりも、契約を守らないことによるデメリットの方が少なければ、自社の利益ために積極的に契約を守らないという選択もあり得るということである。

したがって契約を守らなかった場合のデメリットが何ら規定されていない契約書は、相手方が契約を守らないことを容易に選択し得る契約書なのである。

私はこのような契約書をザル契約書と読んでいる。

ペナルティ条項のない契約書が機能しないことを知ったのは、中国企業と取引するときに相手方から質問された内容である。

「○○○をしてはいけないことは理解しました」

「それでは○○○をしたらどうなりますか?」

相手方から、○○○をしなかった場合のペナルティの有無について質問されたのである。

日本式契約書には、疑義が生じた場合は信義誠実の原則に従って協議するという信義誠実条項を以てトラブル時の対応を規定しているに過ぎない。

〇〇○をしなかった場合は、信義誠実の原則に従って協議する、という内容は、トラブルがあっても協議すれば解決するというように解釈されるのである。

私が起案する契約書には信義誠実条項はないので、クライアントから不安視されることがあるが、信義誠実条項があろうとなかろうと、トラブルになったら協議解決は不可能である。

司法の場で解決する場合も、契約書にペナルティ条項が規定されていれば、裁判所はそれをメルクマールにして判断するのである。

ペナルティ条項がなく、違法性や損害の有無についてまで包括的に司法判断に委ねようものなら、それらを全て立証しなければならないことになる。

なお、トラブルが起きたときに司法解決を最後の砦とする契約書が多いが、費用と時間がかかる司法判断の結果、仮に勝訴したとしても、それが企業側にもたらす利益はないと考えた方がいい。

利益を追求するのが企業であり、相手の瑕疵を司法に判断してもらったところで、利益に結びつかなければ、負けたも同然なのである。

政府が用意した雛形契約書(案)にも、私が嫌いな、禁止条項、信義誠実条項、紛争解決条項が当然のように盛り込まれている。

この記事を書いた人
TANAKA Tomio

2004年弁理士登録
電機・電子・IT分野を得意とし国内・国外の権利化について豊富な経験と実績あり。
中国上海駐在経験を活かし中国実務についても豊富な経験あり。
知的財産調査官として特許を始め意匠・商標・著作権・不正競争防止に係る模倣品の輸入差止め審査に従事した経験を活かし模倣品対策についても積極的に取り組む。

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