裁判は執行されなければタダの紙切れ

契約書
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渉外契約で問題になる紛争解決方法と言えば仲裁解決か訴訟解決かを選ぶこと。

それぞれにメリット・デメリットがあって結局、答えというものはないのだが、おそらく最も選ばれにくい、もしくは選びたくない方法はといえば、訴訟解決で相手国を裁判管轄地にすることだろう。

例えば日本企業と中国企業との渉外契約においては、日本を管轄裁判所にしてください、いうのが教科書的には正しい方法なのである。

実際は、相手側との力関係もあり、日本側が主導権を持たない限り日本の合意管轄を獲得することなどできないわけだが、教科書的にはこれが正しいことになるようである。

これついて疑問を呈してみることにする。

最近はそうでもないが日本人、日本企業の法令遵守精神は他の国に比べれば高い。

したがって、判決が出ればそれに従う、という姿勢に何ら疑いの余地はない。

しかしである。

このような法令遵守精神が海外企業との間で共有できるとは限らないことを知っておく必要がある。

つまり判決が出たからと言ってそれに従うとは限らないのである。

中国で日本企業が信頼されている理由の一つは、日本企業は逃げない。

逃げるとは、国外逃亡のこと。

つまり、不利な状況に置かれたときに、一夜にして国外に逃亡してしまうことは世界の常識であって、日本は不利な状況に置かれても逃げないことを以て「信頼」されているのである。

判決に従わなければ強制執行という方法が用意されているとはいえ、国内企業に対する場合でも簡単ではないのに、まして外国所在の企業相手に対して強制執行で判決内容を実現するなど気の遠くなる話である。

そうなると、少しでも強制執行を実施しやすい環境を整えておく必要がある。

相手国を裁判管轄地にすることのデメリットは、強制執行を想定した場合は、メリットに転換する。

日本の確定判決に基づいて外国で強制執行するよりも、相手国の確定判決に基づいて相手国で強制執行する方がハードルが低いことは明らかである。

このような疑問を持った理由は、教科書的に不利と言われる相手側の裁判管轄の提案を躊躇なく受け入れたことがあったからである。

外国裁判所の判決なんて怖くないと思っているのかもしれない。

判決が出ても国外に脱出してしまえよい、と思っているかもしれない。

なお中国の場合、民事訴訟の当事者は判決内容が実行されるまで出国禁止措置が講じられるので、中国で訴訟を起されたら、まずは出国というのが定石である。

この記事を書いた人
TANAKA Tomio

2004年弁理士登録
電機・電子・IT分野を得意とし国内・国外の権利化について豊富な経験と実績あり。
中国上海駐在経験を活かし中国実務についても豊富な経験あり。
知的財産調査官として特許を始め意匠・商標・著作権・不正競争防止に係る模倣品の輸入差止め審査に従事した経験を活かし模倣品対策についても積極的に取り組む。

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