ビジネスの相手は価値観を共有できる人がいい、
価値観を共有できない人と一緒に仕事をしたくない、
誰もが思っていることです。
ところが代理人の場合はこれとは考え方が違います。
代理人のしごとは依頼者の要求を実現すること。
そうすると、なかにはとんでもないことを要求する依頼者がいるわけです。
最近の例だと、保釈中の身分でありながら日本を脱出したいとか。
たとえ滅茶苦茶な要求で自身の価値観とは異なることであってもそれが依頼者の要求なら、
代理人は依頼者の要求を実現するようなしごとをしなければならない。
もし依頼者の要求を実現することを躊躇うなら代理人を辞任する、
これが代理人の置かれた職務上の立場。
依頼者から相談を受けて、とんでもない内容の情報を聞いてしまう場合もあるでしょう。
場合によっては犯罪になる情報もあるかもしれない。
もうこれ以上、この依頼者の代理人を引き受けるわけにはいかない、
そういって辞任することもあるでしょう。
代理人を辞任したあと、依頼者から得た情報を口外したら、どうなるか。
そんなことがあると知っていたら依頼者も本当のことを喋りません。
だから守秘義務がある。
依頼者から知り得た情報を口外しないのが代理人に課されている職務上の守秘義務。
代理人のなかでも弁護士の場合は特に守秘義務が重要な役割を果たします。
依頼者の希望を叶えることが正義に反することもある、
そんな情報を都度口外していては依頼者の人権を守ることなどできません。
依頼者と代理人との間の信頼関係、これは大切です。
でも依頼者と代理人との間の価値観、
これは全く関係ありません。
この辺りの事情を理解すると、
弁護士がなんであのような弁護をするのか、
ということが分かります。
弁理士 田中智雄