弁護士懲戒請求書が著作物として認められたことへの違和感

日産の元会長カルロス・ゴーン氏の弁護士が、自分に宛てられた懲戒請求書を自身のブログで公開したところ、それが著作権侵害に当たるという東京地裁の判決がありました。

 

懲戒請求書が著作物に該当するとした理由は、

懲戒請求書に記載された「弁護人の関与なしに被告人が逃亡し得るのか」という文章に、文章作成者の個性が発揮されている、というものです。

 

懲戒請求書に記載された上記の文章に作成者の個性が発揮されている、という裁判所の判断にはかなりインパクトがあります。

この程度の文章の存在を以て著作物性を認めるという判断は私にとっては負のインパクトです。

 

法上の著作物に該当するためには、創作的な表現であることが求められます。

個性が発揮されている、ことと、表現が創作的かどうか、これは同列には語れません。

個性が発揮されているかどうかは内心の問題であり、表現が創作的かどうかは外見の問題だからです。

作成者の個性が創作的な表現を以て発揮されているなら、それは著作物にあたります。

そして表現が創作的かどうかは、結局のところ、誰が書いても同じような表現になるかどうかです。

 

評価の対象になった作成者の文章は、作成者が抱いた「弁護人の関与なしに被告人が逃亡し得るのか」という今回の事件を見聞した人なら大凡だれでもが抱くありふれた疑問を、そのまま表現したに過ぎない、と考えるのが妥当です。

つまり、表現に創作性はありません。

 

仮に「弁護人の関与なしに被告人が逃亡し得るのか」という作成者の疑問に個性が発揮されているとしても、その個性を表現した上記の文章が果たして創作的かといえば、全くそんなこともありません。

 

懲戒請求書という文章の性格上、個性を発揮するような文章ではありません。

事実を分かりやすく客観的に伝える必要があります。

そのような性格上、結果的に誰が書いても同じような表現になるわけです。

 

懲戒請求書に限らず一般的に法律文章に著作物性は認められないというのがこれまでの判断です。

個性を発揮するような創作的な表現を記載する文章ではないので当然です。

逆に法律文章を創作的な表現で記載したとしたら、読む側によって様々な解釈ができてしまい、これでは法律文章として機能しません。

 

よく仕様書や取説は著作物として認められるのかといういう質問を受けます。

仕様書や取説の目的も、事実を分かりやすく客観的に伝えることです。

そのような目的を達成する文章に創作性は必要ありません。

創作性があると主張することは時、仕様書や取説としての機能を十分に発揮していない文章であると言っていることと同じです。

 

田中特許事務所

弁理士 田中智雄