秘密保持契約を積極的に活用する

期間の定め方

秘密保持契約を締結することにより相手から開示された情報を契約期間にわたって守秘する義務が生じます。

どの程度の契約期間にするかは当事者が自由に決めうることですが、想定しておかなければならないことがあります。

 

それは特許出願です。

相手から開示された情報に基づいて発明を完成させて特許を出願した場合を想定します。

特許を出願すると出願日から1年6ヶ月が経過した後に出願内容が公開されます。

出願内容が公開されると公知になりますが、出願内容が公開されるまでは秘密が保持された状態が維持されます。

つまり秘密保持契約の契約期間後に出願内容が公開された場合は、守秘義務違反にならないことになります。

 

特許出願による脱法行為は、本来であれば特許出願をさせないような条項や目的外使用禁止条項を定めておけば良いのですが、開示された情報に基づく改良発明の扱いや、開示された情報が明細書に記載されることはよくあることです。

また、特許出願の禁止条項や目的外使用禁止条項を規定することが難しい場合もあります。

 

このような場合、例えば、契約期間満了後の情報開示行為(この場合は出願公開)が、契約期間内の行為に起因する場合は守秘義務違反として扱う条項を規定しておくことが考えられます。

 

もう一つの方法は、契約期間が終了した後も一定の期間、効力が存続する条項を規定おくことです。

秘密保持契約の契約期間が満了する1年6ヶ月前に出願した特許が出願公開される1年6ヶ月経過後の期間を含むように、例えば、残存期間を2年に設定しておくことが考えられます。

契約期間という契約書の最後に規定されているさほど重要ではなさそうな条項ですが、簡単には決められません。

 

秘密にする情報を具体的に特定する

取引先や従業員との間で交わされる秘密保持契約をみると、「知り得た情報を第三者に漏らしてはならない」という一文を以て秘密の保持を義務付けていることが少なくありません。
このような秘密保持条項があっても実際に秘密漏洩が起こった場合は何ら役に立たないと考えておくべきです。
理由は秘密にすべき情報の範囲が抽象的で広すぎる点にあります。

 

契約自由の原則により秘密保持の対象となる情報は自由に定めることができるます。

しかし契約が守られなかった場合のことも考えて、契約で自由に定めることができる秘密情報を、不正競争防止法による保護を受けることができる秘密情報にまで昇華させておくことが有用です。

 

不正競争防止法による保護を受けるための条件は、「非公知」、「有用」、「秘密管理」の3つです。

外部から入手できない情報であり(非公知)、かつ有益な情報(有用)が、「秘密」として「管理」されていなければなりません。

 

秘密として管理されているというためには、秘密の対象となる情報を具体的に特定し、情報にアクセスできる者を限定しておかなければなりません。

 

つまり一般的な契約書に書かれている「知り得た情報を第三者に漏らしてはならない」という一文では、秘密の対象となる情報が何ら具体的に特定されていないため、不正競争防止法による保護が受けられないことは勿論のこと、契約の有効性が疑われることにもなりかねません。

 

秘密情報の漏洩を特許制度を利用して確かめる

秘密情報が漏えいする最も典型的なケースは、退職した人が前職で得た情報を転職先企業に提供する場合です。

退職時に「秘密情報は漏らさない」という誓約を交わすことが一般的ですが、このような誓約書は漏らしてはいけない秘密情報が特定されていないため、退職者も会社も秘密情報の具体的な内容がわからないまま誓約を交わしていることになります。

 

秘密情報を特定した誓約を交わした場合でも、秘密情報を漏らすか否かは退職者本人に委ねるしかないと諦めがちですが、特許制度を利用すれば秘密情報の漏えいの有無を調べることができます。

 

技術者の転職は、転職先でも前職で身につけた知識を使った研究開発に携わることが殆どです。

転職先においても研究開発の成果を特許出願しますが、特許出願時に発明者の氏名を記載することになっています。

出願人や権利者は名義変更や移転により名称が変わることがありますが、発明者は変わることはありません。

そして発明者には名誉権が与えられることが条約に規定されているほど、発明者の地位は厳格に位置付けられており、発明者を偽るということもありません。

発明者が表示される特許制度は、日本だけではなく世界中の特許制度が採用している方式です。

日本を離れ中国や韓国などに転職したとしても発明者の氏名を頼りに自社の秘密情報の漏えいを追跡調査できます。

 

中国での情報漏洩は秘密保持契約が必須

中国では秘密漏えいに対して民事訴訟と刑事摘発の他に行政機関が検査権限等を活用して独自に摘発を行います。

 

民事訴訟では秘密性の立証や侵害行為の立証などにおいて、証拠の公証化など原告の負担が大きく、民事訴訟での解決は極めて高いハードルをクリアする必要があります。

 

秘密漏えいに対して行政機関が権限を発動しやすい環境を整えておくことがリスク対策の一つであり、そのために欠かせない条件の一つが秘密保持契約書の締結です。

 

反不正当競争侵害を管轄する中国工商行政管理局(AIC)が、漏えいされた秘密に対して「秘密保持措置が講じられていた」と認定すれば権限を発動して摘発が行われます。

「秘密保持措置が講じられていた」と認定されるための条件が規定されており、そのうちの一つに守秘義務契約の締結があります。

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/interpret/20070112-1.pdf

刑事摘発を選択する場合においても、公安に提出する資料のなかには秘密保持契約書が含まれており、秘密保持契約書が行政・刑事の摘発を要請するための資料になっています。

 

取引契約書やライセンス契約書など中国企業と取引するための契約書のなかにも秘密保持条項が規定されています。

しかし、それらのほとんどが秘密情報の範囲や管理方法については何ら規定されていません。

 

中国企業と取引するときは、各種契約書において秘密保持条項を規定するだけでなく、独立した秘密保持契約書を締結しておくことで、民事訴訟だけではなく、行政や公安へ秘密漏えいへの対応を要請することができるようになります。