模倣品を放置してはいけない

子供が書いたミッキーの落書きに対して著作権侵害を主張したという都市伝説が存在するほど、ディズニー社の知財管理は厳しいことで有名です。

中国でディズニーキャラクタの模倣品が出回ったときも、中国で訴訟を起こしても無駄だからと尻込みせず果敢に訴訟を仕掛けていきます。

 

日本企業のキャラクターの模倣品も中国で数多く存在しますが、ディズニー社のような訴訟戦を繰り広げたという話しを聞くことはありません。

日本企業の場合は、どちらかと言えば日本政府や中国政府に対して取り締まりの強化を求めることが多いようです。

 

模倣品対策のあるべき姿としてどちらが「正しい」かは、著作権や商標権などの知的財産権が私権である以上、明らかです。

知的財産権の特徴は、他の私権と同様に、権利者が問題にしなければ非侵害ということです。

模倣品が知的財産権の侵害であるためには、まず権利者が侵害を主張しなければなりません。

 

ディズニー社の知財管理が厳しい理由は、声を上げなければ非侵害と看做されるからです。

権利者が声を上げていないのに、つまり非侵害なのに、政府が私権に介入して取り締まることはできないのです。

 

模倣品対策なら特許よりも実用新案と意匠がいい

模倣品対策を効率よく行うためには特許・実用新案・意匠・商標などの知的財産権を使うことです。

すでに知的財産権を取得している場合は、権利のポートフォリオを模倣品に合わせて最適化していきます。

知的財産権がなければ権利の取得から始めるのですが、どの権利をどのように取得するかという検討が必要です。

 

新しいアイデア・デザインが生まれたから権利を取得するという一般的な動機と異なり、模倣品の製造・販売をやめるように相手と交渉する、模倣品を製造している工場の摘発を行政に依頼する、という模倣品対策では権利の存在自体が重要ということになります。

 

意匠や実用新案より特許が強い、無審査の実用新案は使えない、という考えから、特許の取得を目指すことが多いのですが、権利の存在自体が重要な模倣品対策において、取得の難易度が高い特許の取得にこだわる必要はありません。

早く始めるほど効果がある模倣品対策では、取得までに数年が必要な特許の取得はおすすめできません。

 

特許以外の知的財産権である実用新案と意匠は、取得の難易度が低く、取得までに必要な時間が短いという点で模倣品対策に適した権利であるといえます。

 

取得の難易度については、審査の有無が大きく影響します。

実体審査がある特許に対して日本では実体審査なしで権利が付与されるのが実用新案です。

実体審査がないため取得までの時間が短くなります。

 

意匠については実体審査があるにもかかわらず取得までの時間が短く、日本では出願から登録まで約6ヶ月です。

 

無審査で登録される権利は安心できないという意見があります。

しかし特許審査は、新規性や進歩性において一応の審査をしたというだけに過ぎず、完全な権利を保証しているわけではありません。

 

模倣品対策は日本だけでは足りない

日本税関で差止めされた模倣品の9割が中国からの貨物であるように、特に中国における模倣品対策が欠かせません。

 

中国の知財制度は、実用新案はもちろん、意匠も無審査制度を採用しています。

どちらも保護対象が物品の形状に係るものですが、明細書の作成が必要なく図面のみで足りる意匠の方が費用の面では優れています。

 

中国で権利を取得しても意味がないという話を聞くことがあります。

その理由の一つが裁判です。

権利行使、すなわち損害賠償請求や差止め請求を考えれば、たしかに外国の裁判はハードルが高く、司法解決は非現実的です。

 

しかし模倣品対策のほとんどは司法解決ではありません。

タオバオ等の通販サイトに出品されている模倣品を排除するという身近なことから始めます。

製造工場の摘発は行政に依頼します。

 

模倣品対策は、早めに、小さく、継続する、ことが大切です。

そのために必要な知的財産権も、完璧な権利を求めるというよりは、小さいな権利をより多くという考えでポートフォリオを拡張していきます。

 

中国だけでは足りない模倣品対策

中国の模倣品対策のために特許や商標を中国へ出願するのは当然ですが、中国の模倣品対策を成功させるためには中国へ出願するだけでは不十分です。

 

世界の工場である中国からは世界中に模倣品が流通します。

模倣品の流通経路の上流に位置する中国を攻略できれば模倣品の流通を止めることができるのですが、地方保護主義を採る司法や、摘発に積極的ではない行政を相手にしなければならず、思うような模倣品対策ができないのも事実です。

 

そのような中国を攻略する方法の一つに、中国から模倣品が輸出された国の侵害判断を得ることが効果的です。

司法権独立の原則に基づき、中国においても他国の判断に干渉されずに判決を下します。

 

しかし、多くの国で侵害判決が出ている中国から輸出された模倣品に対して、中国だけが侵害を否定する判決を下すというのは、知的財産権を重視するという国際調和を乱すことになります。

 

技術的な判断を伴う特許権侵害にしても、誤認混同を判断する商標権侵害にしても、知的財産権の侵害判断は各国において同じ結果が出やすいものです。

複数の国における侵害判断を以て中国の司法や行政を攻略するために、中国だけではなく中国以外の複数の国へ特許や商標を出願しておくことが効果的です。

 

中国で模倣品を放置するリスク

中国が世界の製造工場から消費地へ変化しています。

これに従い中国で模倣品を放置するリスクも以前と変わってきています。

 

中国で製造された大量の模倣品が海外へ輸出され、模倣品が海外へ流出するこれまでのルートでは、税関検査や検品を経由するため、消費者のもとに届く前の段階で模倣品が排除されています。

ところが中国で製造された模倣品が中国国内で消費される場合、模倣品が排除されず、消費者のもとに簡単に模倣品が届きやすくなります。

 

海外へ流出する模倣品に比べて国内で消費される模倣品の数が遥かに多いので、中国国内の消費者が実際に模倣品を消費してしまう可能性は極めて高くなります。

 

中国国内で模倣品の品質問題や模倣品による健康問題が発生した場合、正規メーカに対するバッシングは日本以上に拡大します。

 

日本の◯◯社の商品は品質が悪い、日本の◯◯社は品質に問題がある商品を中国で販売している(日本と中国で品質基準を変えている)、といったインターネットへの書き込みやメディアの報道が行われます。

 

消費者が模倣品と知っていて購入した場合でも、日本の◯◯社が中国で模倣品を放置したから問題が発生した、と言ったクレームが政府に寄せられます。


◯◯社の製品は品質が良いという理由で中国の多くの消費者が◯◯社の製品を選んでいても、◯◯社の製品は模倣品が多いといったことが周知になると、◯◯社の製品を選ぶ中国の消費者が次第に減ってきます。


模倣品を放置しておくと、企業の信用が低下し、消費者への被害が拡大し、企業収益が減少するといった悪循環をもたらします。

 

では実際の摸倣品対策はどうすれば良いのでしょう。

業種にもよりますが現在の中国では店舗販売以上にタオバオなどのインターネット販売が主流です。

 

模倣品を販売している実店舗を探しだすことは簡単ではありませんが、インターネット販売であればインターネットにアクセスして自社製品の販売状況を簡単に確認することができます。

 

タオバオも知的財産を侵害する商品の出品を禁止していますが、それでも正規品以外の商品が出品されていることが少なくありません。

 

もし自社が把握していない商品がインターネット通販に出品されていた場合は、運営者側に商品の削除を要請することができます。

法律改正によりモールを運営する側にも管理責任が課されれているため、運営者側は権利者からの削除要請には積極的に応じなければなりません。

場合によっては模倣品を出品していた出品者とコミュニケーションをとることで模倣品の背景情報が入手できるかもしれません。

 

タオバオで模倣品が販売されていたときの対応方法

ネットビジネスの急成長に伴い模倣品の販売も急増しています。

ネット上の権利侵害の特徴は、ネットモール運営者が主体的に権利侵害を犯しているわけではないということです。

 

実際に権利侵害を犯している業者を特定し模倣品対策を行うことができれば直接的かつ効果的ですが、費用や実効性の面で躊躇してしまう企業が殆どです。

 

製造工場を特定して警告したとしても、名義を変えてしまったり工場を閉鎖してしまうだけですので効果が期待できないのが実情です。

 

現在では、中国でも日本と同様にサービス・プロバイダ等の民事責任を規定した法律が整備されています。

この法律はモール運営者に模倣品阻止に協力する義務を課しています。

経験上、タオバオ等のモール運営者への警告で一定の効果を上げたケースが少なくありません。

 

タオバオ等のモールに対して、模倣品の削除等の協力を要請する場合はタオバオに次の資料を提出します。

・中国ので登録されている商標等の知的財産権の登録証

・警告者が中国での正当な権利者(ライセンシー)であるを示す資料

・タオバオに模倣品が出店されていた事実を示す資料

・模倣品を出店している販売元を示す資料

 

資料を提出してからタオバオ社内での調査を経て、数日後には模倣品が削除されます。

 

中国が模倣品天国である理由

中国では街中の至るところで、しかも白昼堂々と摸倣品が販売されていることに驚かされます。

中国が今だに模倣品天国であり続ける理由は、実は法律にも問題があるからです。

 

中国の知的財産法も、日本と同様に、模倣品の製造販売に対して刑事罰を適用することを規定しています。

日本と違う点は、侵害規模に応じて実際に刑事罰を適用するかを決めているところです。

 

このため小規模な侵害、すなわち路上で御座を広げて零細に模倣品を販売しているような場合は、例え商標権や著作権を侵害していたとしても、中国の公安が摘発するということはありません。

 

どの程度の侵害規模になれば公安が摘発するかは権利の種類によって異なります。

例えば、登録商標を冒用した商品であることを明らかに知りながら販売した場合(刑法214条)、販売金額が5万元以上であることが訴追基準です。

 

小規模な権利侵害に対して公安が職権で摘発することはないので、実務上は、権利者が公安に摘発を申し立てるのですが、訴追基準を満たす資料を権利者が用意できないことが殆どです。

 

余談ですが、中国のネットショッピングサイトの最大手に出店している店舗の店長に質問したことがあります。

「この店で扱っている商品はホンモノですか?」

「ホンモノを扱っている店なんて無いよ。値段が安いのにホンモノであるはずがないでしょう!」

 

なかにはB級品と言われている検査不合格品を販売している店舗もあるので、全てがニセ物だと一概に断定はできませんが、まずニセ物だと思った方がよさそうです。

 

「Made in Japan」を表示するだけでも模倣品対策

中国で販売する商品には、法律で定められた内容を表示することが義務付けられています。

 

食品の場合であれば、品名、産地、工場名、生産年月日、ロット番号、規格、主要成分、品質保証期間、使用方法を記載したラベルを商品に付けなければなりません。

 

日本から輸入された商品と、中国で製造された模倣品との違いは表示内容にあります。

日本で製造されて中国に輸入される正規品の産地は日本です。

中国で製造された模倣品の産地は中国です。

 

しかし模倣品には日本を産地とする表示が付されます。

偽装表示です。

偽装表示は中国製品品質法で禁じられています。

日本が原産地であると偽装表示したことを理由として、質量技術監督局(TSB)へ取り締まりを申請することできます。

 

中国で商標権を取得していない場合でも、日本から中国へ輸出する商品に「Made in Japan」を表示するだけで模倣品対策ができます。

 

模倣品は税関の活用から始める

海外で製造されたものが日本に輸入されることが非常に多くなりました。

アパレル製品など、その殆が海外から輸入されるということも珍しくありません。

 

海外から自社の商品・製品に似ているものが輸入されている場合、税関で止めてもらうのが最も効果的です。

税関の取り締まりは、圧倒的に商標権や特許権などの知的財産権をもっている人たちに有利にできています。

税関は有名ブランドしか取り締まらないと思っている方もいますが、有名ブランドに限らず、知的財産侵害に対する取り締まりを広く積極的に行うための仕組みができています。

知的財産権さえあれば、模倣品や類似品を取り締まってもらうことができるのです。

 

ただし、税関で取り締まってもらうためには、取り締まって欲しいという意思表示が欠かせません。

有名ブランド品の模倣品や類似品なら、税関職員が自主的に判断して取り締まることもできます。

税関職員が有名ブランド以外の全ての知的財産権を把握することはできませんので、積極的に税関に申請をしましょう。

税関に申請することで有名ブランド以外の模倣品や類似品が重点的な取り締まりの対象になります。

 

模倣品業者が気にする中国税関登録

知的財産権の侵害を理由に日本の税関が輸入を差止めた貨物の9割が中国から輸出されたものです。

中国の税関で模倣品の輸出を差止めることは、日本を始め世界中に拡散する模倣品による被害の防止につながります。

 

中国の税関で模倣品の輸出を差止める方法は、税関職員が職権で輸出を差止める方法と、知的財産権の権利者が税関に申し立てたことを理由に輸出を差止める方法があります。

 

職権による輸出の差止めは、税関が独自に侵害の有無を判断して輸出を差止めるため、裁判所の侵害有無の判断を待って輸出を差止める権利者の申し立てによる輸出差止めに比べて、裁判手続きや裁判費用が不要というメリットがあります。

 

職権による輸出の差止めを実施してもらうためには、商標権や著作権などの知的財産権を予め税関に登録しておく税関登録が必要です。

 

税関登録は職権による輸出の差止めを実施してもらえる他にも、摸倣品業者に対して模倣品の輸出を思いとどまらせるという効果も期待できます。

 

税関登録された商標権や著作権などの知的財産権は税関ホームページに公開されていて、だれでも見ることができます。

模倣品業者は税関登録された知的財産権を常にチェックしています。

これから輸出しようとする商品が、税関に登録されている知的財産権に抵触するかしないかを確認しています。

 

輸出しようとする物品が税関登録されていれば、税関が職権で模倣品を差止めてしまうので、模倣品業者は商品の輸出を諦めます。

もし輸出しようとする物品が税関登録されていなければ、税関が職権で模倣品を差止めることはしないので、模倣品業者は安心して商品を輸出することができます。

 

著作権の中国税関登録は費用効果が高い

中国の税関に登録できる知的財産権は中国で登録されている必要がありますが、著作権は中国国外で創作されたものでも中国国内で著作権が発生するので、日本で創作した著作物でも中国の税関に登録することができます。

 

中国で模倣品対策を行うためには中国で商標権や意匠権などの知的財産権を取得するのが原則です。

ところが著作権の場合は日本で創作した著作物であっても何の手続きをすることもなく中国で著作権を発生させることができます。

 

著作権は登録手続きを必要としないというメリットの他に、保護が及ぶ範囲が広いというメリットもあります。

商標権を取得するときに必要な区分という考え方はなく、意匠権を取得するときに必要な物品という考え方もありません。

区分や物品という枠を超えて著作権の保護が及びます。

 

国境という壁を越え区分や物品という枠を越えて発生する著作権は、中国で模倣品対策を行う場合にさらに効果を発揮します。

 

中国で模倣品の取り締まりを行うのは裁判所だけではありません。

知的財産権を管轄する各行政機関がそれぞれ独自の取り締まりを行っています。

なかでも税関は商標権や意匠権を始めほとんどの知的財産権の侵害品の取り締まりを行っています。

もちろん著作権も例外ではありません。

 

中国の税関で模倣品の差止めを行う方法は、知的財産権の権利者自身が発見した模倣品の差止めを税関に申し立てる方法と、税関職員自身が職権で模倣品を発見して差止める方法があります。

権利者が裁判所に侵害有無の判断を申し立てた後に行う税関差止めと違い、職権による差止めの場合は税関自らが侵害の有無を判断するたため、権利者が負担する裁判手続きや裁判費用が要りません。

 

職権による模倣品の差止めを利用するためには、差止めの根拠となる知的財産権を税関に事前に登録しておく必要があります。

税関登録の手続きに必要な書類の一つに、商標登録証や意匠登録証といった権利の内容や存続に関する証明書があります。

著作権を税関登録する場合には著作物の登録機関が発行した著作権登録証を利用します。

通常、中国の版権局が発行した登録証を利用しますが、日本の文化庁に登録した著作物に基いて発行した登録証を利用することもできます。

 

税関登録の有効期間は登録許可の日から10年と長いので、商標権や意匠権などでは有効期間内に権利が満了してしまうことが少なくありません。

著作権は少なくとも50年間は存続するので税関登録の有効期間を十分に活用することができます。

 

中国で知的財産権を取得する必要がなく、保護範囲が広くかつ保護期間が長いという特徴をもつ著作権を事前登録した中国税関を利用した模倣品対策は、費用対効果に優れた模倣対策であると言えるでしょう。

 

個人を装った模倣品の輸入のこれから

商標権や意匠権などの知的財産権を取得しておけば安心という考えがアマゾンの台頭により崩れ去ろうとしています。

 

近年のアマゾンの販売システムをみると、アマゾン以外の出品者が多勢を占める商品が少なくありません。

そしてアマゾン以外の出品者のうち、海外に居所を構える海外出品者に対する「知財優遇」が問題になっています。

 

商標権や意匠権などの知的財産権は国内に対してのみ効力が及び、国外に対してはその国に権利が存在しない限り知的財産権が及ぶことはありません。

 

つまり日本国内で商標侵害品や意匠侵害品を販売している出品者に対しては知的財産権を行使できるが、国外で侵害品を販売している事業者に対しては日本で登録された知的財産権を行使することができません。

 

海外出品者は、日本の知的財産権が及ばないという「知財優遇」を利用して、海外から直接、日本国内の消費者に商品を発送しています。

アマゾンで商品を買う人の多くが個人であり、個人の輸入に対しては知的財産権の効力が及ばないということが「知財優遇」に拍車をかけています。

 

個人輸入というと、一昔前までは、一部少数の人が経験ノウハウを駆使して成し得る購入方法であり、決して万人が成功するものではありませんでしたが、アマゾンを利用することで誰でも簡単に個人輸入ができる時代になっています。

 

こうした個人を装った模倣品の輸入ついて、ようやく法律が改正され、商標権侵害及び意匠権侵害については、これまで差止めの対象ではなかった個人輸入についても差止めの対象になることになりました。