中国製造の「ブランド品」が世界に拡散している

 

日本で販売されている日本製品のほとんどが中国で製造されています.

中国で製造された「日本製品」は日本へ輸出され、また中国国内でも「日本製」として販売されています.

それにもかかわらず中国人が日本へ行って中国で製造された「日本製品」を買っています.

中国で買うより日本で買った方が安いという理由もあります.

しかし渡航費を考えれば決して合理的な購買ではありません.

 

偽物リスクが低い日本

日本で買うことにこだわる理由は偽物です.

日本には偽物がないという安心感です.

 

中国で偽物に遭遇しないことはまずありません.

通販サイトには偽物が溢れ、デパートでも正々堂々と偽物が販売されています.

悪意で偽物を販売しているだけではなく、偽物であることを知らずに販売している場合もあります.

いまや中国で買う限り偽物を買ってしまうリスクを避けて通ることはできません.

 

日本で買えば偽物を買ってしまうリスクを回避することができます.

しかし、すべての人が日本へ行けるわけではありません.

 

日本直送品が好まれる理由

日本直送品が好まれる理由は、日本で販売されている商品だから偽物の心配をする必要がないこと、関税が課せられるにせよ日本へ行く渡航費に比べれば安く日本製品を入手することができること、なのです.

 

中国の偽物事情を考えると、日本から中国の消費者へ商品を直送するという方法を検討しない訳にはいきません.

日本の企業が中国の消費者に商品を直送する方法は、これまで個人輸入に対して税率を軽減する簡易課税制度が適用されていました.

最近は中国人の個人輸入の利用が増えてきたために、税率を上げたり税関での開封率を上げて税関検査を厳格化しています.

しかし、偽物を買うリスクを回避したいという消費者の心理に変わりはありません.

中国の消費者が個人輸入を利用するケースはこれからも増えていきます.

 

還流偽物

ところがこのような個人輸入者の心理を利用して、中国で製造した模倣品を海外へ輸出して、再び中国国内に還流させるビジネスが生まれています.

 

中国で製造された模倣品の輸出経路をみるとヨーロッパが多いことがわかります.

ヨーロッパへの輸出が多い理由は、ヨーロッパがブランドの集積地であるからに他なりません.

 

ヨーロッパを訪れる観光客やヨーロッパから直接購入する個人輸入者をターゲットにブランド品と偽って中国製の模倣品を販売するビジネスが跡を絶ちません.

中国の消費者が真正品を求めてヨーロッパから直接購入したブランド品も実は中国製の模倣品である可能性が高いのです.

 

海外でブランド品を購入する消費者は中国人だけではありません.

日本人もまた海外で中国製の「ブランド品」を購入するリスクを避けて通ることはできません.

ネット通販を利用して中国で商品を販売するときの商標トラブル

 

中国に販売拠点をもたなくても中国の巨大市場にアクセスすることができる中国向けのインターネット通販が人気です.

中国に販売拠点を置いて商品を販売するときは中国で商標登録をします.

中国の個人相手に直接、日本から商品を輸出するだけだから、中国で商標を登録する必要はない、と考えて中国で商標登録をしない人も少なくありません.

この場合、中国へ輸出する商品の商標を、第三者が中国で登録したらどうなるでしょうか.

 

商標と個人輸入

中国で商標を登録した第三者は、商標権に基づいて日本から中国に輸入される商品の輸入差止めを中国税関に申し立てるかもしれません.

輸入差止めが申し立てられたからと言って、個人で輸入する小口の貨物には商標権の効力は及びません.

しかし輸入差止めが申し立てられた税関の職員は、それが個人輸入であるかどうかを判断することができません.

貨物の通関を一旦保留し、輸入者から意見を聞いてから個人輸入かどうかを判断します.

個人輸入であることを輸入者が主張立証できなければ通関はできません.

個人輸入を理由に商標権の侵害に該当しないと税関が判断するのは、個人輸入であることの証明に成功してからです.

 

中国海関法第28条 個人が携帯して出入国する手荷物物品、郵送で出入国する物品は、自己使用のもので、適正な数量を限度とし、かつ税関の監督管理をうけなければならない

 

通関トラブル

日本と違って中国の行政職員は決して親しみやすいとは言えません.

税関に行くのが面倒、税関に行く時間がない、など、諸般の事情で手続きを放棄する人もいるでしょう.

個人輸入であることを説明しても税関が認めてくれないこともあるでしょう.

 

通関トラブルが続けば、その評判は微博を通じて拡散します.

通関リスクのある商品を買う中国人はいなくなるでしょう.

 

インターネット通販であっても中国で商標を登録しておく方が安心です.

 

商標登録マークRの扱い

中国商標法には、商品、商品の包装、使用説明書などに「登録商標」の文字や、登録商標の右上または右下に登録記号(Rマーク(®)又は注マーク(㊟)を表記することが規定されています.

必ず「登録商標」や登録記号を表記しなければならない訳ではありません.

しかし、登録された商標であることを表記することで、無断で使用しようとする人に対して警告として機能させることができます.

 

「登録商標」や登録記号は商標が登録されたあとでなければ表記することができません.

登録されていない商標に対して表記すると、登録商標の虚偽表示になり警告や罰金が科されるので注意してください.

 

登録記号が表記された商品を中国に輸入する場合には注意が必要です.

例えば、アメリカで登録された商標に®を表記してアメリカで商品を製造し、その商品を中国に輸入する場合を説明します.

アメリカで登録された商標に®を表記することはアメリカ国内では合法です.

ところが、その商標が中国で登録されていない場合、商標に®を表記した商品を中国国内で販売すると中国の商標法に違反します.

 

逆に中国で製造した商品をアメリカに輸出する場合、アメリカでは登録商標であることを示す®の表記がないと、商標権が侵害された場合に損害賠償を請求できないことになっています.

商品を輸出したり輸入する場合は商標の扱いに注意しましょう.

商標登録ではなく中国で著作権登録をしておく

商品・サービスに制約される商標登録出願をするなら著作権登録をしておくことも商標トラブル対策の一つです.

 

商標制度が招いたトラブル

商標制度の間隙を突かれたトラブルが中国で発生しました.

商標制度は商品・サービスごとに独占権を付与します.

全ての商品・サービスについて独占権を得たいと考えるなら、全ての商品・サービスに対して商標登録出願を行わなければなりません.

一部の商品・サービスについて商標権を取得したというだけでは、他の商品・サービスについて第三者の無断使用や第三者の商標登録を防ぐことができません.

 

中国で発生した商標トラブルは、商標権を取得していなかった商品・サービスの商標権を競合他社に登録された挙げ句、その商標権の存在を理由に侵害訴訟を提起され敗訴したという内容です.

 

全ての商品・サービスについて商標権を取得しておけば良いのですが、全ての商品・サービスについて商標権を取得し維持していくには膨大な費用が発生します.

複数の国で同じような商標の取得の仕方をするとすれば、その費用は計り知れません.

 

商標ではなくて著作権登録をすすめる理由

著作権制度は、商品・サービスごとに権利を発生させるという商標のような制度ではありません.

他人の商標権が成立した場合でも自分の著作権が有効に機能します.

第三者に商標権を登録されてしまった場合でも、第三者の商標登録出願前に著作権の存在を立証できれば第三者の商標権に対して異議または無効を請求することができます。

 

中国でも著作権と商標権の関係について、商標登録出願前に他人の著作権を侵害してはならないと規定しています(中国商標法第32条).

 

著作権は創作と同時に発生し、登録手続きは不要な権利です.

ただし、異議または無効を請求する場合や訴訟で先著作権の存在を主張する場合は、著作権が登録されていることが証拠の証明力を高めるために有効です.

 

中国における訴訟で証明力がある証拠を揃えるのは簡単ではありません.

例えば、中国で著作権に係る訴訟を提起する場合は、創作者や創作日などの事実関係を証明する資料を証拠として提出します.

 

高い証明力を持っている証拠であるためには次のような証拠でなければなりません.

国の機関、社会団体が職権により作成した公文書証であること.

公証・登記を経た書証であること.

 

訴訟において著作権登記証明書を提出すれば高い証明力がある証拠として採用されます.

 

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著作権登録の効果

 

創作と同時に発生する著作権.

権利は発生しても権利の存在を証明するのは簡単ではありません.

著作権を使う場合は権利があることを証明しなければなりません.

 

中国の著作権事情

中国では著作権の登録件数が増え続けています.

2021年の著作権の登録件数は6264378件、前年比24.30%の増加です.

www.ncac.gov.cn

商標権や特許権と違い著作権は登録しなくても権利が発生します.

なぜこれほどまでに著作権登録が利用されているのか.

 

著作権紛争事件の増加

コピー商品が多い中国では著作権を理由に紛争に発展するケースが多いのが特徴です.

実際、知的財産権紛争の半分以上が著作権の紛争です.

特許権や意匠権よりも著作権が好まれる理由は著作権には無効というリスクがないからです.

 

中国で侵害訴訟を起こす場合、裁判所に権利侵害を説明するための資料を提出します.

著作権侵害の場合は、創作者や創作日などの事実関係を証明する資料を提出します.

証拠の要件が厳しい中国では、紛争の段階でこれらの事実関係を証明する資料を用意することはとても大変なことです.

 

著作権登記証明書を提出すると、著作権登記証書が初歩証明として採用されるので、複雑な立証から解放されます(「著作権民事事件の審理に関する法律適用における若干の問題についての最高人民法院の解釈」第7条)。

 

ソフトウェア開発の増加

開発したソフトウェアの知的財産権の帰属についてトラブルとなるケースが増えています.

ソフトウェアの帰属を規定した開発者側と発注者側との間の契約だけでは足りず、ソフトウェア登録機関に登録するケースが増えています.

 

特に海外企業が中国企業にソフトウェア開発を発注する場合、当事者間の契約だけではなく、ソフトウェア登録機関に登録しておいた方が安心です.

 

著作権登録の効果

日本をはじめ多くの国が加盟するベルヌ条約は登録を権利発生の要件としていません.

それにも関わらず各国は著作権の登録制度を設けています.

著作権の登録制度は、権利以外の別の効果を発生させるために利用されています.

 

日本で著作権を登録すると次の効果が得られます.

登録をした者を著作者と推定(著作権法第75条)

登録した日を最初に公表した日と推定(著作権法第76条)

登録した日をプログラムの創作日と推定(著作権法第76条の2)

著作権移転等の登録を第三者対抗要件(著作権法第77条)

 

中国では著作権登記証明書が訴訟の初歩証明として採用されます.

 

インドでは著作権登録簿に記載された明細が全ての裁判所において採用されます(著作権法第48条).

 

ほとんどの国において、著作権登録の効果は、登録した内容を一応確からしい証拠として扱うというレベルですが、アメリカは著作権登録に対して積極的な効果を与えています.

 

アメリカでは著作権登録を連邦裁判所での権利行使の要件としています(著作権法第411条(a)).

アメリカでは著作権登録をしないと訴訟を提起することができないのです.

創業・プレスリリースの後では遅すぎる商標対策

 

商標は創業を考えている全ての人が持っている知財です.

新しい事業を始めるときに考えた企業名や商品名が「商標」という知的財産なのです.

 

創業前の商標対策

創業前に始める商標対策は、企業名や商品名を安心して使える状態にしておくことです.

他人の登録商標の存在を調査し、その結果、他人の登録商標が存在したら、企業名や商品名を変更する、というところから始めます.

他人の登録商標が存在しているにもかかわらず、そのまま使用することは、つねに商標権侵害という爆弾を抱えていることになります.

警告や訴訟という形でいつ爆弾が爆発するかわかりません.


他人の登録商標が存在していなかったら、一刻も早く商標の取得に向けて特許庁に対する出願手続きを開始します.


早い者勝ちと言われる商標は、先に出願した者を保護する制度です.
先に使用しているからといって安心してはいけません.

創業後の商標対策

創業後の商標対策は、同じ商標や似た商標が存在しないかをチェックすることです.


商標を使い続けていくと次第に商標にブランド力が備わってきます.

そのようなブランドにただ乗りするために商標が真似される場合があります.

真似された場合でも、商標が登録されていれば、他人の商標の使用を排除することができます.

 

プレスリリースは時期に注意

特許と違い商標の場合は公知を理由により出願が拒絶されることがありません.

同一又は類似の商標が登録されていない限り、公知の商標であっても、その商標を出願すれば登録することができます.

 

プレスリリースを利用したビジネスの周知は、商標を出願した後に行ってください.

商標を出願する前にプレスリリースをしてしまうと、第三者に商標の出願の可能性があることを知らせることになるからです.

 

もし、プレスリリースによる商標登録出願の可能性があることを知った第三者が先に商標登録出願してしまうと、第三者の商標登録出願が登録されてしまい、自分の商標登録出願は商標登録を受けることができなくなります.

 

商標の抜け駆け出願の原因になるプレスリリース

プレスリリースが第三者の抜け駆け商標登録出願を誘う可能性があることを忘れてはいけません.

日本国内のプレスリリースであっても、プレスリリースにより海外へ商標登録する可能性があることを知った第三者が、海外で先に抜け駆け出願してしまうかもしれません.

 

日本国内の商標登録出願前にプレスリリースをしない場合でも、中国など海外の商標登録出願前にプレスリリースをしてしまうことが少なくありません.

 

プレスリリースと商標のプランニング

海外の商標登録出願前にプレスリリースをしたい場合は、海外で商標登録出願する予定の商標を先ず日本で出願しておきます.

そして実際に海外へ商標登録出願をするときは優先権を主張して日本の出願日から6ヶ月以内に出願します.

 

優先権を主張して中国など海外へ商標登録出願すると、日本の出願日に海外で商標登録出願したものと判断してもらうことができます.

海外の実際の商標登録出願前にプレスリリースをしても、日本で商標登録出願が完了していれば、優先権主張の効果により日本の出願日が適用されます.

プレスリリースにより第三者の抜け駆け出願があっても、その影響を受けることはありません.

洋服や家具という実用品を著作権で守る

 

知的財産権が満了して誰でも使えるパブリックドメインになったデザインを施した「ジェネリック家具」.

ライセンス料が要らず、誰でも自由に制作することができるため、低価格で販売することができます.

消費者の側からみると嬉しいことですが、家具メーカの側からみると悩みの種です.

 

家具に著作権を発生させる

「ジェネリック家具」の知的財産はデザインです.

デザインを保護する知的財産権は、出願日から25年で権利が満了する意匠権です。

意匠登録出願の日から25年という短い期間しか独占制作・独占販売がが認められません.

25年では短すぎる、と思うのであれば、意匠権以外の知的財産権が必要になります.

 

デザインを保護する知的財産権は、意匠権以外にも著作権があります.

著作権の保護期間はデザイナーの死後70年です.

意匠登録出願の日から25年という期間に比べると、とても長い保護期間が与えられています.

 

さらに著作権法の世界では、保護期間の延長が常に検討されています.

 

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保護期間が長い著作権を発生させることができれば、「ジェネリック家具」化を先延ばしすることができます.

 

著作権を発生させるための工夫

日本では家具などの実用品のために創作したデザインは応用美術として扱われます.

応用美術は著作権ではなく意匠権で保護するのが原則です.

ところが応用美術であっても実用性よりも美術性に重点が置かれていれば著作権を発生させることができます.

美術性に重点を置いてデザインを創作する、ということが肝心です.

 

最初に創作したデザインが美術性に重点が置かれていれば、そのデザインを実用品である家具に応用しても著作権を発生させることができます.

美術性に重点を置いてデザインを創作するというのは、一品制作を目的としてデザインを創作するということです.

 

洋服のデザインにも著作権

洋服も工業製品として量産されるものです.

著作権が保護する芸術品や美術品などの一品製作品とは対象が違います.

したがって、アパレルメーカが製作したデザインの洋服には著作権が及ぶことはありません.

 

ところが同じ洋服のデザインでも量産を目的としないものがあります.

例えば、デザイン学校.

デザイン学校の生徒さんが製作する洋服は量産されるものではありません.

芸術品や美術品と同じ一品製作です.

 

そうすると、デザイン学校の生徒さんが製作した洋服のデザインには著作権が及ぶということになります.

 

同じ洋服のデザインなのに、アパレルメーカがデザインすると著作権が発生せず、デザイン学校の生徒さんがデザインすると著作権が発生するという不思議なことがおこります.

 

デザイン学校の生徒さんが製作した洋服のデザインをアパレルメーカが採用して販売するという方法なら、アパレルメーカの洋服でも著作権は発生します.

 

工業デザインに著作権を発生させて海外の摸倣から守る

例えば、中国も日本と同じように応用美術は本来意匠権で保護することになっています.

ところが実際には応用美術、すなわち工業デザインを著作権で保護することが少なくありません.


著作権法のよいところは無方式主義であること、そして相互主義を採用していること、です.

無方式主義を採用しているので著作物が完成した時点で著作権が発生します.
意匠権のように出願という手続きは必要ありません.

相互主義を採用しているので、日本人が日本で創作した著作物であっても中国国内で保護されます.
意匠権のように日本とは別に中国で権利を取得する必要はありません.


中国で何ら手続きをしなくても権利が発生する著作権を活用できれば中国企業のデザイン摸倣に対抗することができます.


工業製品を「応用美術」として中国著作権法の保護を受けるためには、日本でも著作権法の保護を受けている必要があります.
(相手国が応用美術を著作権法で保護していれば、中国でも応用美術を著作権で保護することを示した「LEGOブロック事件」が有名です)

 

日本では応用美術は意匠法で保護することになっていると言いましたが、応用美術であっても実用性よりも美術性に重点が置かれていれば著作権が発生します.
著作権が発生するかどうかは最初のデザインがどのような目的で創作されたかどうかで決まるからです.

最初に創作したデザインが美術性に重点が置かれていれば、そのデザインを実用品に応用しても著作権が発生するのです.

この考えに基づけば応用美術であっても著作権の保護を受けることができます.
日本の著作権で保護されている応用美術すなわち工業デザインであれば、中国でも相互主義のもと著作権法で保護されます.

冒認出願対策なら商標よりも著作権を登録する

使う予定はないが勝手に登録されると困るのでとりあえず中国に商標を登録しておく.

中国は日本と同じように登録主義を採用しています.

したがって、中国国内で使う予定がない商標でも「将来的に使用する予定がある商標」について予め商標登録をすることができます.

 

中国で製造・販売する事業計画に先立ち、中国で使用する商標を予め出願する.

このような計画に基づいて中国で商標出願する場合は中国商標法の趣旨に合致します.


中国で製造・販売する計画はない.

しかし、第三者に商標を登録されてしまうのは嫌だ.

だから、とりあえず中国で商標出願する.

このような商標登録出願は中国商標法の趣旨と合致しません.

 

現段階では使用する予定はない.

しかし「将来」のことはわからない.

この場合の「将来」とはどれくらいの期間なのでしょう.

中国商標法が想定している「将来」は、出願した商標が登録された後、「3年」です.

 

使用していない商標は取り消される

中国商標法が登録主義を採用する結果、冒認出願対策商標を含めて、実際には使用されていない商標が数多く登録されるという弊害が生じます.

 

このため、中国で商標登録された後、3年間継続して使用されていない商標に対して、不使用を理由とする取消を請求できる制度(中国商標法第49条)が設けられています.

 

中国で製造・販売する予定はない.

冒認出願対策のためだけに中国で商標を登録しておく.

このような場合は、取り消されるリスクがあることを想定しておかなければなりません.

 

冒認出願対策は著作権を使う

中国で商標を出願しておくことは冒認出願対策の基本です.

しかし商標の冒認出願対策は商標登録だけではありません.


登録商標は無効または取消により権利が消滅するという致命的なリスクがあります.

冒認出願対策として出願された商標の多くが、登録後、中国において実際に使用されることなく、ただ形式的に権利が存在しているに過ぎません.


実際に使用されていない商標に対して独占権を付与することは中国商標法が意図するところではありません.
冒認出願対策のために費用をかけて中国に商標登録しても、不使用を理由に取り消されるのであれば冒認出願対策としては役不足です.

 

商標以外の冒認出願対策として効果的なのは、中国版権局に著作物を登録しておくことです.
著作物を登録する理由は著作権を使いやすくするためです.

 

著作権そのものは登録が効力の発生の要件でありません.

第三者の商標の冒認出願があっても、冒認出願前に著作物があれば、その著作物の存在を理由に冒認出願により登録された商標の権利を消滅させるができます.

 

しかし、著作権の存在を理由に冒認出願された登録商標の権利を消滅させる手続きにおいて、冒認出願前に著作権が存在していることを証明する「証拠」を用意することは簡単ではありません.


中国では提出した資料が「証拠」として採用されるためのハードルが高いのです.

したがって、実際には冒認出願前に著作権が発生しているにもかかわらず、それを証明する資料が中国政府が許可する「証拠」として採用されないことが少なくありません.

 

使える「著作権」を用意する

中国政府が許可する「証拠」を用意する最も簡単な方法は何か.

これは中国版権局が発行する著作権登録証です.

 

日本の文化庁に登録した著作物や米国著作権局に登録した著作物でも、ベルヌ条約に加盟する中国において「証拠」として機能させることは可能です.

しかし、外国政府発行を理由に領事認証や公証が要求されることを考慮すると、中国版権局に著作権登録しておくことが理想です.

 

なお商標登録される客体に創作性は必要なく、したがって単なるアルファベットの羅列でも商標登録されます.
しかし、著作権を発生させるためには創作性を必要とし、このため単なるアルファベットの羅列では著作権は発生しません.


冒認出願対策として著作物を検討するときは、単なるアルファベットの羅列ではなく創作性を備えたコンテンツを用意しておく必要があります.

日本の技術力では中国で特許が取得できない時代になりつつある

従来技術に比べてどの程度の創作性があれば特許を認めるかはその国の産業政策に依存します.

その国の技術レベルが低いにもかかわらず高い創作性を求めると、その国の特許は技術レベルの高い外国企業に占められてしまいます.

一方、通常の創作活動で行われる程度の低い創作性に対して特許を与えてしまうと、特許権が乱立し通常の創作活動に支障をきたします.

 

現在の日本の技術レベルは高く、創作性を高くしても外国企業に特許を独占されてしまうようなことはありません.

外国で特許になっても日本で特許にならない理由の一つは日本の技術レベルが高く、そして特許を与えるための創作性のレベルも高いからです.

 

中国の技術力

現在の中国の科学技術の進歩が著しいことは周知の通りです.

模倣品大国という印象が技術力を過小に評価させています.

しかし先端技術においてはすでに日本を凌駕しています.

2021年9月に発表された知的財産権強国建設概要はこれからの中国が先端技術について独走する未来像を描いています.

www.gov.cn

 

前回の概要が発表された2008年の中国は、日本と比べればまだまだ技術レベルに差があるることは明確でした。

日本と中国とで特許を得るために要求される創作性のレベルに違いがあるため、日本では特許にならないような発明が中国では特許になってしまうことも少なくありませんでした.

 

当時の中国の特許政策は質より量を目指していた時代です.

前回の概要が発表された後の2013年当時の国家知的財産戦略では、特許保有件数を2013年の4件/万人から2015年に6件/万人へ、そして2020年には14件/万人とする計画を発表しました.

 

この目標を達成するためには特許出願件数を促進させるような税制優遇などの政策に加え、特許を与えるための創作性のレベルをコントルールする必要があります.

こうした努力が実り2016年4月末時点で中国の特許保有件数は159万4000件を達成しています.

j.people.com.cn

 

政策目標を達成するまでは特許を与えるための創作性のレベルを低く維持していました.

日本で特許にならないような発明が中国で特許になるという時代でした.

 

量より質への転換

最新の概要は、件数よりも品質へ転換することを示しています.

高価値発明と言われる特定の技術分野の保有件数を、6.3件/万人(2020年実績)から2025年までに12件/万人を目指す政策目標を掲げています.

 

中国が注目している、ビッグデータ、AI、遺伝子工学の技術分野を初め、量子情報、集積回路、ソフトウェアなどの分野の研究費を毎年7%増やして目標達成に挑みます.

 

日本では特許になっても中国では特許が取得できない.

これがこれからの中国です.

商標登録するときの出願人住所に一貫性をもたせる

 

同じような商標が複数登録されてしまうと出所の混同が起きてしまいます.

出所の混同が条件なので、出所の混同がおきなければ似たような商標であっても登録されます.

出所の混同がおきない商標とは出所が同じ商標のことです.

すでに登録されている商標と似ていても、その権利者と同じ出願人なら登録されます.

 

事業者の居所の表記は一致させにくい

出願人の同一認定は、事業者名の一致はもちろんのこと、事業者の居所の一致も必要です.

事業者名の同一性を満たすことは簡単でも、事業者の居所の同一性を満たすことは意外と難しいものです.

事業者の表記は一通りでも、居所の表記は複数あるからです.

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号という特許庁の居所は、

東京都千代田区霞が関3丁目4−3、

東京都千代田区霞ヶ関三丁目4の3

など、複数の表記が可能です.

(この程度の表記の相違は同一であると見做しています)

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran/document/index/42_111_01.pdf

東京都千代田区霞が関町3−4−3

東京都霞が関3−4−3

東京都港区霞が関3−4−3

このような表記で居所が特定された場合は、出願人が同一であるとは認められません.

自分の登録商標であっても、先行登録商標と似ているという理由で自分の登録商標が引用されて拒絶されます.

 

外国出願は表記が相違しやすい

日本国内の出願であれば、識別番号の記載で居所の表記を省略することができます.

居所の表記をしなければ、居所の表記の相違を避けることができます.

ところが外国出願では、出願人情報を英語で表記します.

さらに英語の表記を現地語に翻訳して表記します.

 

居所を英語で表記するときは、日本語で表記する以上に表記の方法が多岐にわたります.

3-4-3, Kasumigaseki, Chiyoda-ku, Tokyo, 100-8915, Japanという表記に対して、

4-3, 3-chome, Kasumigaseki, Chiyodaku, Tokyo, 100-8915, Japan

3-4-3, Kasumi-ga-seki, Chiyoda-ku, Tokyo, 100-8915, Japan

このように表記された居所が同一であると認められるかどうかは現地政府次第です.

さらに、この表記が現地語に翻訳されたときは、さらに表記のバリエーションが増えてしまいます.

 

国際登録商標は注意が行き届きにくい

出願人同一の判断は、同一国内で出願された商標だけではありません.

国際登録された商標も同一性判断の対象です.

 

国際登録された商標の権利者の居所と、例えば中国に直接した出願したときの出願人の居所が不一致の場合は、国際登録商標の権利者情報を修正する、もしくは中国国内出願の出願人情報を修正して、出願人の同一性を担保させることができます.

 

たとえ形式的な居所の修正であっても日本のように簡単に修正できるわけではありません.

修正前の居所と修正後の居所が同一であることをどのように証明するのか.

そのようは書面の公証を得ることができるのか.

面倒な手続きであると同時に費用も嵩みます.

 

国際登録商標の情報を修正する方が遥かに簡単です.

ただし国際登録商標の情報を修正してしまうと、その影響は各国に登録されている国際登録商標に影響を及ぼします.

修正したことにより事後的に拒絶理由が発生することもあります.

 

中国の拒絶理由をクリアするために国際登録商標の情報を修正したところ、中国以外の国において出願人の同一性がなくなり先後願の関係になり、後願の出願商標が拒絶されることもあります.

 

一括変更が必要

複数の商標権があるときに、居所や名義の一括変更が求められる国があります.

中国では、複数の商標権の名義や住所・居所を変更する場合、複数の商標権に対して一括して変更手続きを行わなければなりません(商標実施条例第30条)。

一括変更しない場合は、変更申請は放棄されたものとして扱われます。

 

一括変更が求められていない日本でも、居所の表記が異なる複数の権利を放っておくと、その登録商標が他人の先行登録商標として見做されて拒絶の理由になりかねません.

 

代理人に一貫性をもたせる

出願するときの出願人情報に一貫性をもたせる一つの方法は代理人を変えないことです.

国内の代理人、現地の代理人、同じ代理人を使っているかぎり、出願人情報が出願ごとに異なることを避けることができます.

 

代理人を変えると、出願人情報が新たに作成されるのですが、その場合に、すでに出願されている出願人情報を参照することは期待できません.

その結果、同じ出願人であるにもかかわらず、異なった出願人情報が存在してしまいます.

外国商標登録のことを考えて日本で商品を指定しておく

日本だけではなく中国やタイなどの外国に商標を登録する機会が増えてきました.

優先権制度を利用すれば日本の出願日を基準に審査が行われます.

これにより日本の出願日と外国の出願日との間の第三者の商標出願による拒絶などの不利益を回避することができます.

 

優先権の効果を得るためには日本で出願した内容と同一の内容を外国で出願しなければなりません.

具体的には日本で出願した商標と同一の商標で、日本で指定したときの商品や役務と同一の商品や役務を指定して外国で出願する必要があります.

ところが商品や役務の同一性を維持することは簡単ではありません.

日本で指定できる商品や役務の内容と中国やタイなど外国で指定できる商品や役務の内容とに制度上の相違があるからです.

 

日本では包括的な商品や役務の指定が認められています.

しかし中国やタイなどでは包括的な指定はできません.

中国やタイでは商品や役務を個別に指定しなければなりません.

 

さらに日本では同じ商品を多岐にわたって記載することができます.

例えば、「被服」一つをとってみても、「ジャージ製被服」、「ジーンズ製被服」、「デニム製被服」を指定することができます.

このような指定商品をそのまま中国で指定することはできません.

 

日本で指定した商品や役務の内容と同一の商品や役務を指定して中国やタイで出願すると、中国やタイでは認められていない商品や役務の指定を含むことになります.

このような出願は方式審査で補正を求められます.

 

補正をして商品や役務の内容を変えてしまうと日本で指定した商品や役務との同一性が損なわれます.

日本で出願した内容と異なると優先権の主張が認められなくなります.

優先権の主張が認めれなければ、日本で出願した日ではなく、外国で実際に出願した日が出願日となります.

 

この結果、日本で出願した日から外国で出願した日までの間の第三者の出願による影響を受けてしまい、外国で商標を登録することができなくなることもあります.

 

特許の場合は外国の実務を把握したうえで特許明細書を作成しています.

商標においても外国の実務を把握したうえで商品や役務を指定しておく必要があります.

 

なお、国際出願を利用すれば、日本で指定した商品の英訳で中国に出願することができまてしまいます.

しかし中国国内で認められていない指定商品がどのように扱われるのか、また登録された場合の効力はどうなのか、など、とても不安定です.

中国保税区で製造したOEM製品を輸出したら商標権侵害になる?

日本企業が中国でOEM製品を製造する場合の一つに保税取引きがあります.

来料加工貿易と言われる保税取引きは、保税で材料を輸入し保税で製品を輸出できます.

このため関税や増値税の問題から開放されるというメリットがあります.

 

中国国内でOEM製造を行い全品を輸出するOEM対外加工なら商標権の侵害問題はないという事例.

OEM製品を来料加工すれば商標権の侵害問題はないという事例.

さらには保税区内の工場でOEM製造すれば商標権の侵害問題はないという事例.

 

このような事例があると、保税区でOEM製品を製造して輸出する場合は商標権の侵害にならないのでは?と思う人がいても不思議ではありません.

 

法律上の解釈と実際の運用が必ずしも一致するわけではありません.

しかし法律上の解釈を理解しておくことは大切です.

 

OEM対外加工と商標権侵害

海外の商標権者からの委託を受けて中国国内で製造し、製造した製品を中国国内で流通させることなく、全品を中国国外へ輸出する場合の商標権の扱いをどうなるのか.

中国商標法上、「輸出」は商標の使用です.

従って、中国で登録されている商標権との関係ではOEM対外加工品の輸出も、商標権の侵害です.

 

保税取引きと商標権侵害

保税取引きは、文字通り「保税機能」を備えた貿易であって、決して法律が及ばない取引きではありません.

従って、保税取引きだから商標権の侵害問題はないという理由は抗弁にはなりません.

 

保税区で製造したOEM製品の輸出と商標権侵害

保税区であっても中国の領土であることに変わりはありません.

従って、保税区で製造する行為も中国国内の行為です.

中国で登録されている商標権との関係では、保税区で製造したOEM製品の輸出であっても、商標権の侵害です.

 

通関が止まるリスク

中国で商標権が存在しない場合は問題なく通関できるOEM製品.

しかし、将来的に第三者が中国で商標を登録するかもしれません.

第三者が登録した商標により、OEM製品の通関が急にストップすることもあります.

通関する場合に授権証の提出を要求してくる税関が現れることも想定しておく必要があります.

 

貿易実務は、法律上の問題だけでなく政治上の問題によっても、突然に現場の運用が変わります.

いまは問題がなくても、今後の対策を講じておくことに越したことはありません.

 

中国語商標の作り方

 

中国に進出する企業は自国名のブランドとは別に中国用に漢字を使ったブランドを用意しています.

 

麦当劳 マクドナルド
星巴克 スターバックス
飞利浦 フィリップス
肯德基 ケンタッキー
优衣库 ユニクロ

 

アルファベットのブランド名やカタカナのブランド名を、中国用にローカライズした漢字のブランド名に代えています.

 

豊田 トヨタ

三菱 

樫尾 カシオ

漢字のブランド名を持っている場合なら、そのまま中国で使うこともできます.

しかし漢字のブランド名をそのまま使うことが良いのか?

そんなヒントを与えてくれるのが、衣料品ブランドの「しまむら」です.

 

「しまむら」に学ぶ中国商標の作り方

「しまむら」は創業者の島村恒俊氏の性から取ったブランドです.

中国へ進出する際に用意する漢字名も、島村で良かったはずです.

ところが「しまむら」は島村を使いませんでした.

「飾夢楽」

これが中国で使う漢字のブランド名です.

 

よく考えられた漢字

「飾夢楽」が良く考えられていると思われる点を3つ紹介します.

1つ目が、shi・ma・mu・raの呼び方になるように漢字を選んだことです.

中国は日本と同じ漢字でも呼び方が全く異なります.

 

「島村」のピンインはdao cunなので、shi・ma・mu・raとは発音しません.

「飾夢楽」のピンインは、shi meng le.

shi・ma・mu・raの発音に近づける漢字を選択しています.

 

多くの日本企業が、日本で使っている漢字をそのまま中国で使います.

このため、似ても似つかぬ発音に戸惑っているところが少なくありません.

 

2つ目が3文字の漢字にしたことです.

shi・ma・mu・raのそれぞれに漢字を当てはめれば4文字の漢字です.

そこを敢えて三文字にしています.

 

現在、中国のブランド名は三文字の漢字が主流です.

最初に紹介した世界的なブランドも全て三文字の漢字です.

三文字にすることにより、呼びやすい、覚えやすい、見た目のバランスがいいという効果があります.

 

3つ目が漢字の選定です.

衣料品ブランドならではの特徴があります.

 

コーディネートの「飾」.

あの服を着たい、この服を着たいという夢や希望「夢」.

洋服を買うときの楽しみ「楽」.

 

「飾夢楽」を見ただけでワクワク感が醸成されます.

 

3つの工夫が盛り込まれた「飾夢楽」ブランド.

実は漢字三文字は中国でも非常に人気で商標を登録することも簡単ではありません.

そんな商標激戦国の中国において、「飾夢楽」は、夢や楽など、観念が良い漢字を2つも使っていながら商標も登録に成功しています.

 

漢字とひらがな・カタカナの組み合わせ

日本と同じように中国でも漢字を選ぶ基準は同じです.

漢字が表現する意味合いがよく、漢字自体のバランスがよく、覚えやすいこと.

 

そのような嗜好で選ばれた漢字3文字の商標はすでに中国で登録されています.

さらに文字数を多くした漢字商標を選択せざるを得ません.

 

文字数を多くすると覚えやすさやバランスが損なわれるので、文字数を多くする代わりに文字と図形を組み合わる方法があります.

 

中国ではひらながやカタカナが文字ではなく図形として扱われます.

これを利用して、漢字とひらがなやカタカナを組み合わせるという方法があります.

 

「superdry極度乾燥(しなさい)」に学ぶ中国商標の作り方

「superdry極度乾燥(しなさい)」という、イギリスのファッションブランドが使っているネーミングを紹介します.

 

漢字とアルファベットからなる文字商標に中国では図形として扱われるひらがなを組み合わせています.

 

日本人では思いつかないネーミングです.

漢字に興味がある欧米人、日本語に興味がある中国人に受け入れられやすいことを狙っています.

 

漢字2文字や3文字に比べれば文字数が多くなりますが、文字数が増えても覚えやすさやバランスは損なわれていません.

中国で商標登録する前に知っておきたいこと

 

出願人の決め方

これから中国で商標を登録する場合、権利者となる出願人は、次のように決めることができます.

 

中国に法人がまだ設立されていない

この場合は、親会社である日本法人名で出願するか、中国現地法人の法人代表に就任する予定の個人名で出願します.

 

中国に法人を設立してから1年未満

この場合は、親会社である日本法人名で出願するか、中国現地法人の法人代表者の個人名で出願します.

中国現地法人名で出願する場合は、年度検査を終えた法人の営業許可証の写しを提出します.

設立してから1年を経ないと、最初の年度検査を終えることができません.

設立から1年未満の中国法人名で出願は原則できません.

 

中国に法人を設立してから1年を経過

この場合は、親会社である日本法人名で出願するか、中国現地法人名で出願します.

中国現地法人の法人代表者の個人名で出願することもできます.

 

日本法人を権利者にするメリット

親会社の日本法人が権利者の場合、中国現地法人に対して商標の使用権を設定することができます.

中国法人から日本法人に対して商標使用料という方法で、利益を中国から日本へ戻すことができます.

 

名義変更

日本法人から中国法人へ商標権を譲渡したり、個人から法人へ商標権を譲渡する場合は譲渡手続きを行います.

日本法人が商標の権利者の場合、商標権の使用、収益及び処分は、取締役会の決議が必要な場合があります.

中国法人が商標の権利者の場合、商標権の使用、収益、処分は董事会での承認が必要な場合があります.

 

商品・役務の決め方

中国で商標出願するときに指定する商品・役務の数は必ず2つ以上にします.

中国の商標審査は指定した商品・役務の一部に拒絶理由があっても日本のように出願全体を拒絶するわけではありません.

拒絶理由がある指定商品・役務だけを拒絶し、その他の指定商品・役務については登録します.

 

もし一つしか商品・役務を指定しておらず、そしてその商品・役務に拒絶理由があると、登録できる商品・役務が存在しない出願になってしまいます.

 

中国の商標料金は、出願料に10年分の登録料を含んでいます.

登録できる商品・役務がない出願だからといって登録料が戻ってくることはありません.

 

指定する商品・役務の数が10を超えると超過料金が発生します.

実務上、出願時に指定する商品・役務の数は2から10です.

 

商品・役務の名称はライセンスに影響する

中国企業に対して商標の使用を許諾するライセンス契約は、「商標使用許諾契約登録弁法」に則って作成します.

中国においても契約自由の原則に基づいて、当事者が自由に記載内容を決めることができ、仮にそのように商標ライセンス契約を作成しても、契約書は効力を発揮します.

 

しかし商標ライセンス料を日本へ送金するためには、「商標ライセンス契約の届出通知書」を銀行に提出する必要があります.

「商標ライセンス契約の届出通知書」を取得するためにはライセンス契約書を届け出て審査を経なければなりません.

 

審査で問題になるのが、ライセンス契約においてライセンシーに使用を許諾する商品とライセンサーの商標登録証に記載されている指定商品・役務の不一致です.

例えば、商標登録証に「被服」が指定商品として記載されている場合、「靴下」に対して使用を許諾するというライセンス契約を締結している場合です.

 

商標使用許諾契約登録弁法には、「使用を許可する商標が当該商標の使用が確定されている商品範囲を超えている場合は、ライセンス契約の登録申請を受け付けない」、と定めています(第11条).

 

商標登録証に記載された指定商品の解釈は日本と比較すると厳格です.

日本の実務では商品を大きな概念で指定できるので、商標登録出願するときに指定商品を個別に記載することはしません.

中国の実務では商品を概念で指定することはできないので、指定商品を個別に記載します.

日本で「被服」を指定商品として権利化すれば、「靴下」も保護されます.

中国で「被服」を指定商品として権利化しても、「靴下」は保護されません.

 

中国の商標登録証に記載された個別の指定商品以外に商標権の効力は及ばないと考えておくべきです.

 

インターネット通販は必須

中国のインターネット人口は10.32億人(2021年12月時点)を超え、普及率は73パーセントです.

www.cnnic.net.cn

 

日本のように普及率が80%に届いた場合、中国のインターネット人口は12億人にまで膨れ上がります.

巨大なインターネット人口を背景にインターネット上のモールで商品を販売するサービスが急成長しています.

 

製造拠点から消費拠点に発展した中国において、消費サービスに不可欠なインターネットサービス区分で商標を登録している企業が少ないのが気になります。

 

中国では、日本のように小売等役務を指定して商標を登録することはできません.

しかし小売等役務に相当する35類にはすでに類似群が用意されています.

そしてすでにその区分を指定して商標を登録している企業が存在します.

 

小売等役務の指定が可能になってから商標登録出願しても、その区分にすでに第三者の商標登録が存在している可能性があります.

 

中国では化粧品や衣類といった商品商標だけではなく、小売等役務を指定した商標登録が可能になる前の今のうちから、小売等役務区分である35類についても商標登録をしておく方が安心です.

 

複数の区分を纏めない

中国でも日本と同じように、1つの出願に複数の区分を含めることができる、多区分制が採用されています.

一見便利そうですが、現時点では区分ごとに出願する従来通りの方法で出願することを推します.

 

理由は、登録までの時間が長くなること、登録後の商標管理が面倒なこと、費用がかかる、からです.

 

例えばABCという商標を、3つの区分1,2,3で出願する場合を考えてみます.

それぞれの区分について、出願X(区分1)、出願Y(区分2)、出願Z(区分3)として出願する方法と、多区分制を利用して、全ての区分を含めて、出願W(区分1、区分2、区分3)として出願する方法の2通りを選ぶことができます.

 

審査期間が長くなる

商標審査に要する期間は区分ごとに異なります.

現在の審査期間は平均で1年程度ですが、この意味は、ある区分では8ヶ月程度で登録になり、ある区分では16ヶ月程度で登録になるということです.

 

複数の区分を1つにまとめてしまうと、全ての区分の審査が終わるまで審査結果が通知されません.

拒絶理由が存在しない区分2と区分3の審査はすでに終了しているのに、区分1の審査が終了しないので出願Wの審査結果が通知されないということになります.

区分2と区分3の審査は8ヶ月で終わっても、区分1の審査に16ヶ月がかかった場合、区分2と区分3も16ヶ月経たないと審査結果が通知されません.

 

模倣品がすぐに出回る中国では、武器となる商標権がなければ模倣品対策ができません.

大事な商標は区分ごとに出願して早期に権利化を目指した方がいいのです.

 

商標管理

多区分制を利用して出願して、そのまま登録になると1つの商標権に複数の区分が含まれています.

区分ごとに商標権があるわけですが、例えば、10年後に商標権を更新をするとき、たとえ不要となった区分が存在していても、その区分の更新料も支払わなければならないことが予想されます(現時点では明らかではありません).

 

また商標ABCの、区分1の商標権を譲渡するには、まず区分1の商標権を分割しなければなりません.

現時点でこのような分割が認められるのか否かが不明なので、将来の事業譲渡で区分1の商標権を譲渡することになった場合でも、譲渡できないことになります.

 

出願するときは複数の区分をまとめて管理できるので便利ですが、逆に商標権が登録された後の管理では不便なことが少なくありません.

香港で商標登録するときの小技

中国本土で登録された商標権の効力は香港には及びません.

香港でも商標権の効力を及ぼしたいときは、中国本土とは別に香港でも商標を出願しておく必要があります.

 

予備審査サービス

香港の知的財産局は、出願しようとする商標に対する予備調査サービスを提供しています.

予備調査をリクエストすると、出願しようとする商標の商品または役務と同一または類似の商標がすでに登録されていないかを調査してくれます.

 

出願しようとする商標の商品または役務と同一の商標がすでに登録されていれば、出願を断念したり、別の商標を考えるというような対応ができます.

 

出願しようとする商標の商品または役務と類似の商標が登録されていた場合、知的財産局はさらに登録の可能性についてアドバイスを提供しています.

知的財産局の調査内容に基づいて、出願の要否や別の商標を考えるといった判断をすることができます.

 

香港で商標を登録するために必要な費用は、出願時に発生する費用の他、実体審査で拒絶理由が通知されたときの費用も考えなければなりません.

予備調査を利用して登録可能性が高い商標を出願すれば、実体審査で拒絶理由が通知される可能性も低くなります.

予備審査を利用して拒絶理由を回避できれば、香港で商標を登録するために必要な費用と時間を最小限に抑えることができます.

 

繁体字と簡体字の2つの商標

香港で商標を出願するときに注意することは漢字の字体です.

簡体字を使う中国本土に対して香港では繁体字を使います.

 

ところが中国へ返還された後の香港は、次第に中国本土の影響が強くなり、現在では香港でも中国本土で話す普通語や中国本土で使われる簡体字が普及しています.

そのため繁体字の商標だけを香港で登録するだけでは十分な保護が期待できなくなってきています.

香港で商標を出願する場合、繁体字の他に簡体字の商標も出願しておく方が安心です.

 

連続商標制度を利用する

繁体字の他に別途、簡体字の商標を出願する場合に利用できる、連続商標という制度があります.

連続商標を利用すれば、繁体字と簡体字の商標を簡単に出願することができます.

中国流ビジネスは日本の法律に抵触する

中国の街を歩いていると一般市民が公安と口論をしているところを良く見かけます.

中国の公安と聞くと、権力を振りかざして、反抗すればすぐにでも連行されそうな印象があります.

それにも関わらず公安を相手に一歩も引かない市民をみかけます.

なかには複数の公安を相手に立ち振る舞う勇敢な市民もいます.

日本では見られない光景ですが、なぜここまで反抗するのか.

 

中国は人治主義?

中国は人治主義の国と言われています.

有力者や権力者の裁量で全てが決定される国です.

 

しかし法治主義という点から中国をみると、最近の中国は頻繁に法改正が行われています.

人治主義の国で法整備をしたところで、意味がないと思うかもしれません.

一体、中国は人治主義なのか、それとも法治主義なのか.

 

中国は法治主義でもある

公安に必死で抵抗する市民の行動は、人治主義であり法治主義でもある中国の今の姿を映し出しています.

例えば、交通違反と判断されると、その場で、ハンディ端末から違反データが入力されます.

ここで違反データが入力されたら最後、必ず処分を受けることになります.

あとから違反データを改ざんしたり消去したり、便宜を図ってもらい罰則を免れることは、今の中国では非常に難しくなっています.

 

法律手続きに入る前の段階、つまり違反データが入力される前の段階は、黒でもなく白でもないグレーの段階です.

グレーの段階では、黒か白かを公安職員の広い裁量で決めることができます.

 

この段階で、違反をしていないということをアピールしたり、◯◯という権力者の友人だ、公安の△△と友人だ、ということをアピールしたり、さらには、タバコを分けあって仲間意識を醸成しようとしたりします.

ここで公安の琴線に触れれば見逃してもらうことができるわけです.

人治主義であることが功を奏したわけです.

 

トラブルがおこる前は人治主義、トラブルがおきたあとは法治主義の中国ビジネス

中国でビジネスをしていれば、叩けば「ホコリ」が必ずでてきます.

検査と称して公安が突然現れ、ここで「ホコリ」が見つかってしまうと、あとは法律手続きに従わざるを得ません.

 

有力者や権力者のコネを利用しても、一度、記録されてしまった「ホコリ」を消すことはできません.

多かれ少なかれ何らかの処分を受けることになります.

 

しかし、有力者や権力者のコネを使って人治主義を利用すれば、公安が検査に来ないようにすることや、検査に来ても「ホコリ」を見て見ぬふりをさせることができます.

「ホコリ」が記録される前のグレーの段階で穏便に処理することができるのです.

 

内資企業に比べて有力者や権力者のコネがない外資企業は、人治主義を利用することが得意ではありません.

「ホコリ」が記録されてしまった後に、急いで有力者や権力者を探して便宜を図ってもらおうとします.

 

残念ながら今の中国では、そのような便宜は通用しません.

中国では地方政府との折衝を円滑に進めるために接待や金銭の授受が行われるのが普通なのです.

トラブルがおこる前は人治主義、トラブルがおきたあとは法治主義、これが中国ビジネスです.

 

中国流ビジネスは日本の法律に抵触する

例えば、中国で飲食店を開業する場合には衛生許可が消防許可が必要になります.

ところが地方政府の役人の中には正当な理由もなく許可を出し渋ります.

また毎月申告する税務内容について税務局の職員が異議を唱えてきたり、税関が貨物を通関してくれない場合もあります.

 

このような場合に、安易に職員に金銭を授受したり接待をしたりすると、日本の不正競争防止法に規定する外国公務員贈賄罪が適用される可能性があります.

 

第十八条(外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止)

何人も,外国公務員等に対し,国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために,その外国公務員等に,その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと,又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として,金銭その他の利益を供与し,又はその申込み若しくは約束をしてはならない。

罰則の内容は、個人に対して5年以下の懲役または500万円以下の罰金、さらに会社に対して3億円以下の罰金です。

https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/zouwai/pdf/damezouwaiponchie20210924.pdf

企業のコンプライアンスの意識が高い日本企業は贈収賄に消極的でも、現地の中国人やコンサルタントのなかには積極的に贈収を奨励してくることがあります.

 

確かに贈収賄により短期的には手続きが円滑に進むかもしれません。

一度、贈収賄で解決した企業の担当者は、次回もその方法を使ってトラブルを解決しようとしますが、何れ露呈します.

 

政府の汚職防止が重点課題の最近の中国では贈収賄の取り締まりも厳しくなっています.

時間と費用がかかっても正式な手続きを以て解決することが最終的には企業の利益になります。

 

外国公務員収賄防止指針が頻繁に改定されています.

海外でビジネスをする前に一度目を通しておきましょう.

https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/zouwai/pdf/GaikokukoumuinzouwaiBoushiShishin20210512.pdf